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2012.12.31 (Mon)

トイレの神様/植村花菜―リアリティーとポピュラリティーは相反するか?

トイレの神様/植村花菜


2010年3月にリリースされたMini Al.「わたしのかけらたち」収録。
いわゆる「泣ける歌」として大きな反響を受けて同年11月にはシングルカット。
同年のレコード大賞で優秀作品賞および作詩賞を受賞。
翌2011年は年間を通じてヒットを続け、この曲で紅白歌合戦に出場しました。
その後この曲を題材にした小説や絵本、テレビドラマも作られたそうです。
そんな非常にヒット曲らしいヒット曲。
2005年にデビューしたもののこの曲にいたるまでヒットを飛ばせないでいた植村は、後に「この曲がヒットしなかったら今プロとして歌えていない」と語っています。

今回はこの曲を通じて、歌詞について考えてみたいと思います。

私は以前は、具体的な意味が薄い歌詞が好きでした。
たとえばこんな。

言葉はきっとまたGood-bye
空に向かって投げた記憶
手の中に残る痛み
(「GAME」L⇔R)


誰も触れない二人だけの国
大きな力で空に浮かべたら
ルララ宇宙の風に乗る
(「ロビンソン」スピッツ)


わかるようなわからないような内容ですが、メロディーに乗っていて、音の響きとして心地のよい言葉たち。
こういう歌詞のほうが、リスナーそれぞれが自分の生活や体験、あるいは聴いているときの気分に、歌詞を引き付けやすいんですね。
こういう歌詞は、人やTPO(時間、場所、状況)を選ばない「ポピュラリティー(普遍性)」がある歌詞、と言えると思います。

一方、この曲はすべて、植村が体験した実話。
しかも、トイレ掃除のエピソード以外にも、「小三」「五目並べ」「鴨南蛮」「新喜劇」と、ディテイルが非常に細かく具体的に描かれています。
非常に「リアリティ(現実味)」のある歌詞だと思います。
これを、「こんな話嘘だろ?」と思う人はいないと思いますが、一方でこれとまったく同じ体験をした人は植村本人以外には一人もいないはず。
もう少し具体性をなくしていけば、同じような体験をした人は増えるはずですが、ここまで具体的だと、自分の体験に重なりにくくなっていきます。
そういう意味でリアリティとポピュラリティは元来相反する性質を持っていて、両立は難しいものだと言うのは確かだと思います。

ではなぜ、この曲を聴いた多くの人が、「あーそうですか、そんなことが」では済まず、何度も何度も涙を流したのでしょうか。
それは、リスナーが自分の体験に引き付けようとする前に、逆にリスナーを曲の世界に引き込んでしまうからだと思います。
映画や小説のように。
人間には「共感する力」がありますから、実際には関係ない人のストーリーに感情移入することができます。
そして、感情移入して思いっきり泣いた後、ふと、自分にとっての「おばあちゃん」は誰?ということに思いが至るんですね。
その瞬間、この曲は「植村花菜個人の歌」から、「リスナー個人の歌」に変わるんですね。
そして、多くの人の共感を呼び込み、ヒットした瞬間「みんなの歌」に変わる。

個人の「本当の歌」は、「みんなの歌」=「名曲」になりうる、リアリティーとポピュラリティーは両立しうる、ということを改めて示してくれた曲だと思います。

※「歌詞のリアリティー」については、こちらのブログ記事も参考になります。
Faux camaieu「歌詞とリアリティー」
空唄旅団 ~人生という名の旅の途中~「8月18日(土曜日)の日記」


※この曲↑を気にいった!という方には、こちら↓もお勧めです。
door/ルミカ
路面電車に乗れば/石井杏奈


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